戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 

Society5.0を支える革新的深海資源開発

石井 正一

日本CCS調査株式会社 顧問

前例のない深海からのレアアース回収に挑む
Society5.0をはじめとして革新的な次世代技術の実現に不可欠なレアアース。陸上だけではなく、深海に堆積している海底の泥にもレアアースが含まれていることが分かっています。深海資源開発の研究を通じ、産業プロセスとしての確立を目指している石井 正一PDにお話を伺いました。

―「深海にひそむ有用鉱物資源の効率的な絞り込みに」―

Q-

南鳥島周辺海域においてコア採取に成功したとのことですが、計画は順調に進んでいるのでしょうか。

PD-

2019年度の調査では地層サンプル61本の採取に成功し、最高6,000ppmを超える高品位のレアアースが含まれる場所をより高精度に確認しました。今年度は高精度音響調査を行うことで追加データを取得する一方、地球統計学的空間推定手法を用いたレアアースの概略資源量評価を進めており、南鳥島沖のレアアース泥濃集帯の絞り込みの最終段階にあります。

Q-

深海ターミナルの製作も完了し、今年度はいよいよ実海域でのドッキング試験が始まりますね。

PD-

効率よく海底を調査するためには、海中ロボット(AUVなど)が不可欠な存在です。これには、洋上や海中の無人探査機が含まれており、海洋版ドローンのようなものをイメージして頂くと分かりやすいでしょう。本プログラムでは海洋における調査能力を飛躍的に向上させる目的で、複数のAUVを同時運用し、深海の情報を効率的に収集するシステムの構築に取り組んでいます。その際に乗り越えるべき問題の一つがAUVの充電の問題です。深海ターミナルが実用化すれば、AUVの充電やデータ回収を海底で行うことができるようになります。船上にその都度上げる必要がなくなるため、長時間にわたり深海調査を行うことが可能となります。また、海洋調査のみならず、海洋産業、たとえば海底通信ケーブルのメンテナンスや洋上風力発電設備の設置のための土質調査、養殖産業における監視作業などへも導入が期待されています。

―「環境への配慮と資源開発の両立」―

Q-

水深6,000mの深海底からレアアース泥を回収するには技術的なハードルも高いと思われますが、実現しそうでしょうか。

PD-

水深6,000mの海底からレアアース泥を大量に回収するということには、今まで世界で誰も挑戦していません。その点では、このプログラムは非常にチャレンジングな取り組みを行っていると認識しています。そのため、まずは初年度に南鳥島周辺海域から相当量の堆積物を回収してくることから始めました。その堆積物の分析結果をベースに、さまざまなシミュレーションを繰り返しながら、2019年度には水深6,000mの海底から、レアアース泥を採取するための特殊な機器の概念設計までを完了することができました。今年度からは、実機の設計や製作を開始するフェーズに入ります。最終年度の2022年度までには、水深6,000mからのレアアース泥の解泥、採泥、揚泥までをシステムとして統合的に実証し、レアアース回収の技術的目処を立てようと計画していますが、これを産業プロセスとして確立させることが次の課題となります。

Q-

深海資源を開発するには環境面への配慮が欠かせませんが、レアアース開発の実現に向けてどのような取り組みを行っていますか?

PD-

環境面への配慮は非常に大きな課題と認識しています。深海資源開発は、海底での生態系への影響を十分考慮する必要があります。そのためにも、開発対象区域が現状どのような環境にあるのかを把握する必要があると考えています。国際海底機構(ISA)が定めた鉱物資源開発における環境ガイドラインでは、海流や水温、濁り度など、さまざまな項目を一定期間モニタリングすることが義務付けられています。本プログラムでは、「江戸っ子1号」という新たな長期海底設置型の観測機器を対象となるエリアに設置し、1年分の環境データの取得に成功していますが、水深6,000m海域での1年間にわたるデータや映像の取得は、世界初の成功事例です。これらのデータは学術的にも非常に有用なものであり、現在、研究者とともに取得した映像やデータの詳細な分析を進めているところです。また、SIPで開発した海洋モニタリング手法を世界のスタンダードとするため、現在、国際標準化機構(ISO)での規格化をめざしています。こうした深海での環境面への取り組みについても、日本が世界をリードすべく進めていきたいですね。

―「レアアースはSociety5.0を支える重要な存在」―

Q-

レアアース泥を精製し「約500g」のレアアース抽出に成功しましたが、その組成にはどのような特徴があったのでしょうか。

PD-

南鳥島海域から採取したレアアース泥には、ネオジムやジスプロシウムといった重要元素が豊富に含まれていました。これらの成分は、現在国が進めているSociety5.0を支えるためのベースとなる極めて重要な元素です。たとえば、特に次世代の自動車産業としてEVや自動運転技術が注目されていますが、そこに搭載される高出力のモーターなどには欠かせないものです。また、注目すべき点として、南鳥島海域の海底から採取するレアアースには現状の海外から輸入されるレアアースとは異なり、2つの利点があります。1つ目は海底から採取されたレアアース泥には陸上のレアアース開発で大きな問題となっている放射性物質が成因的にほとんど含まれないため、開発に伴う環境保全・安全性で大きなアドバンテージがあること。2つ目は我が国の排他的経済水域に賦存するため、国際情勢に左右されず安定的に回収が可能であることです。現在は、中国などの特定の地域でしか産出されていないレアアース資源ですが、将来の緊急時に備えて国内で安定供給する目処が立っていることは、Society5.0の実現においても一定の貢献につながると考えています。

Q-

環境技術研修や海外での環境セミナー開催など、積極的に国際的な活動もされていますよね。

PD-

海洋環境評価技術の分野では、日本が世界をリードする存在となると考えています。われわれの資源開発の取り組みや環境調査技術の成果を海外に発信するだけでなく、国際的な海洋人材育成の取り組みも行っています。特に、太平洋島嶼国7ヶ国の17名を日本に招いて開催した環境技術研修は極めて高い評価をいただきました。今年2月にはフィジーの南太平洋大学でSIPの取組を紹介するセミナーを開催し、海洋モニタリングに向けた現地のニーズを直接ヒアリングしてきました。これらの取組を通じて、海洋資源開発に関する周辺国の理解を深めていくことも重要な課題だと考えています。

―「府省連携をしながら深海資源の産業化モデル構築を目指す」―

Q-

SIPの特徴でもある府省連携の取り組みについてはいかがでしょうか。

PD-

本課題においては社会実装への橋渡しが重要になるため、府省連携は不可欠です。レアアース泥の賦存量調査では経済産業省と、AUV開発では国土交通省とそれぞれ連携し、定期的な意見交換の場を設けています。昨年度からは海外諸国への技術普及に向け外務省との連携も新たに開始しており、SIPの特徴である府省連携の枠組みを大いに活用させていただいています。SIPにおける12課題のなかでも、9府省の連携で進めているこのプログラムは、非常に良い方向でさまざまな波及効果を発揮していると考えています。

Q-

今後取り組んでいかねばならない課題や将来に向けた展望についてお聞かせください。

PD-

これまではテーマごとの要素技術開発や分析を中心に進めてきましたが、今後はこれらのシステムの統合を図り、出口戦略として深海資源開発に関する産業化モデル構築へ向けて、一定の道筋をつけていきたいと考えます。そのために今年度は、地球深部探査船「ちきゅう」を用いた水深3,000m海域での揚泥管の性能確認試験や、水深6,000m級AUVの航行試験等の大きな現場試験を予定していますので、コロナの影響をできるだけ回避しながら、一歩一歩計画を着実に進めていきたいですね。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)