戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 

物流クライシスを解消するスマート物流

田中 従雅

ヤマトホールディングス株式会社 執行役員

革新的な物流網構築に向けた取り組み
日本の物流網は逼迫し「物流クライシス」ともよばれる課題が浮上しています。ビッグデータやAIをはじめとしたテクノロジーで物流業界はどのように変革されるのか、「スマート物流サービス」の構築に向けて研究開発を行っている田中 従雅PDにお話を伺いました。

―「要素技術開発と社会実装に向けたプロトタイプの開発」―

Q-

「物流・商流データ基盤構築の研究開発」の簡単な概要とこれまでの進捗について教えてください。

PD-

本課題においては、技術研究を担うチームとプロトタイプを作成するチームの2つに分かれています。技術研究を担うチームでは、基礎要素技術である「アクセス権限コントロール技術」「非改ざん性担保技術」「個別管理データ抽出・変換技術」「入出力高速処理」「他プラットフォーム連携技術」の5つのテーマについて研究を行っています。このうち「個別管理データ抽出・変換技術」については技術的な確立は完了している状況で、今後はプロトタイプを作成し社会実装に向けて実験を行う予定です。「アクセス権限コントロール技術」「非改ざん性担保技術」「他プラットフォーム連携技術」については企画から開始し技術開発を進めているほか、「入出力高速処理」は集めるデータによっても開発の内容が異なるため、現行の機器などを活用できるかも含めて確認中の段階です。また、物流・商流データ基盤のなかに入れるデータを作っても、どう使うのか利用者と理解しあっていないと役に立ちません。そのためプロトタイプを作って概念実証をするチームも編成しています。プロトタイプのチームでは、日用消費財やドラッグストア・コンビニなど、具体的なユースケースを想定しており、8月中には完了できる予定で計画通り順調に進んでいます。

Q-

日用消費財やドラッグストア・コンビニといった、各分野の物流の特徴や研究の今後について教えてください。

PD-

日用消費財はメーカーからの物流、ドラッグストアやコンビニは小売店までの物流であり、モノとしてはつながっています。メーカーも小売も大手企業を中心で進めているため、社会経済的なインパクトも大きいものになるのではないかと考えています。ただし、当然のことながら、それぞれの企業の考え方もあるため慎重に進めている状況です。コンビニの分野においては、セブン‐イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンと連携し、都内湾岸エリアに立地している各社の店舗へのチェーン横断的な共同配送の実証実験を実施することも発表しました。これによってフードマイレージの削減、運行トラック減少による二酸化炭素排出量の削減などが期待でき、SDGsへの取り組みとしても有効であると考えています。医薬品については、医療機器も含めてトレースの重要性を追求していく予定です。地域物流の場合は業界を絞るのではなく、エリアを集約して展開していこうと検討しています。実際に岐阜県の製造業で実証実験を行い、混載輸送によって物流効率を図ります。実証実験の詳細な結果については検証を行っている最中ですが、おおむね当初計画していた目標は達成できる見込みです。地域物流の分野は規模感としては低いですが、今後のモデルケースになるという意味では重要な取り組みであると考えています。

―「研究開発段階の課題は順調に研究が進行中」―

Q-

「省力化・自動化に資する自動データ収集技術」の進捗についてはいかがでしょうか。

PD-

実現可能性確認段階のものが6つ、研究開発段階のものが2つあります。実現可能性確認段階のテーマについては、6つの中で研究開発段階に進めていけるものを抽出し検討している段階です。研究開発段階のものについては、「スマート物流支援のスマホAIアプリケーション基盤技術の研究開発」を最終ゴール95%程度の精度まで上げようとしており、現在は90%程度の精度となっています。これは、単眼カメラで荷物を撮影し、荷物のサイズや荷姿をAIで処理するための研究開発です。もう1つの「荷物データを自動収集できる自動荷降ろし技術の開発」は、物流現場の狭いエリアやコストをかけられない中小企業などに向けて、省スペースで安価なロボット開発を行い提供するものです。現在、ロボットの開発準備中の段階ですが順調に進んでいます。

―「物流の逼迫は世界共通の課題でもある」―

Q-

海外における物流業界の成功事例などはあるのでしょうか。

PD-

中国のような中央集権的なモデルではなく、われわれが目標としているような、分散型でオープンな取り組みに成功している海外の国の事例はまだありません。かつては、情報をクローズで保有しておくことが企業の競争力となっていた時代もありました。しかし現在、情報はお互いに共有することでビジネスのイノベーションが生まれ、メリットのほうが大きいものになってきています。GAFAのような巨大プラットフォーマーに対抗できる手段としては、一社が情報を専有しておくのではなく、共有した情報をいかに活用して競争力をつけていくかが重要となります。これは日本のみならず、ヨーロッパなど海外の国も含めて共通する課題といえるでしょう。

―「実現に向けて具体的な方策を実行」―

Q-

「スマート物流サービス」を社会実装しようとしたとき、どのような課題が立ちはだかっているでしょうか?

PD-

物流クライシスという言葉が生まれるほど、近年の物流業界は逼迫している状況です。特にBtoB(法人間取引)の荷物輸送の需要が顕著で、これまでサプライチェーンが作り上げてきた物流網を見直さなければならない時期に来ているのかもしれません。一方で、「高度化されたサプライチェーンの中で物流改革ができないか」ということを検討しているのも事実であり、例に挙げた混載輸送の実証実験もその一環なのです。物流について共通の課題と認識しているメーカーや企業も増えてきており、本課題ではそのような企業と手を取り合って集めて進めてきた背景もあります。そのため、社会実装のために必要なことや技術的な要素はある程度見えているのが現状です。問題なのは、共同物流に取り組んでいる中でコスト負担の割合をどうするか。将来的なビジョンや大まかな方向性は合っているため、あとは実現に向けて具体的な方策が求められます。ちなみに、スマート物流にはビッグデータも不可欠な存在ですが、個人情報の取り扱いも大きな課題のひとつです。法規制の問題や個別の企業ポリシーもあわせて検討していかないと、ビッグデータを収集して分析し、さらなる高度化を実現することは難しいと考えています。

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