戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 

新しい日常に対応する国家レジリエンスとは

堀 宗朗

国立研究開発法人 海洋研究開発機構 付加価値情報創生部門 部門長

感染症対策時の防災に求められること
大地震や昨今頻発する台風、豪雨災害などに加えて、新たな脅威として発生した新型コロナウイルス。感染症対策時の防災という極めて難易度の高い課題に対して、どのような解決策が考えられるのか。「国家レジリエンス」という観点から、堀 宗朗PDにお話を伺いました。

―「災害現場に実践投入し高い評価を得た
    感染症対策時の防災、研究開発を推進」―

Q-

「レジリエンス」とはどのような概念なのでしょうか。

PD-

一言で言えば「災害発生後、いかに早く回復できるか」ということです。日本では災害の頻度や規模が大きいこともあり、防災は災害が起こる前の対策を重視してきました。SIPでは、これまで比較的わが国では取り組みが少なかった、レジリエンスの向上を目標としています。

Q-

課題全体の進捗状況や成果についてお聞かせください。

PD-

本課題は7つのテーマから構成されており、その基盤となる情報システムの開発は順調に進んでいます。
昨年発生した台風15号および台風19号では、われわれが開発している情報システムを試験的に活用することで迅速な情報提供を可能にしました。実際の災害現場で使ってもらい、高い評価を得たのは大きな成果であったと感じています。今年度はSIP第2期の3年目にあたり、情報システムのプロトタイプの開発と実証を目標としています。防災訓練や災害現場で使ってもらい、有効性や課題を見出して4年目以降につなげていきたいと考えています。われわれが開発している情報システムは国向けと市町村向けに分かれています。国と自治体の間にある、県の防災システムとの連携も重要で、われわれの情報システムの有効性が認めらたこともあり、国向けのシステムと県の防災システムの連携も着手しました。今年度は15程度の県の連携を実現する予定です。
全ての県に対応できるように進めていくのは当然のことなのですが、各県側の準備も必要なため、16県をモデル実証の対象としています。もう1つ重要な取り組みとしては、新型コロナウイルス対策として「感染症対策時の防災」が挙げられます。感染症が蔓延するなかで災害が発生したときには、3密を避けながら避難所の運営を考えなければなりません。平常時は水道や電気などのインフラが維持されていますが、災害時のインフラが壊れている状況では感染症対策も難しくなります。防災向けの情報連携システムが感染症対策時にもしっかり稼働して活用できるよう新たな研究開発を進めていく予定です。

―「 防災CBによるテーラーメイドな支援
     多数の衛星による迅速な被災状況の把握 」―

Q-

私たちの生活において、レジリエンスはどのような効果を発揮するのでしょうか。

PD-

災害発生時に住民ごとに最適化された情報を提供する「防災チャットボット(CB)」の実証実験を進めています。たとえば、小さな子どもやお年寄り向けに提供する避難情報と、それ以外の方に提供すべき情報は必ずしも同じとは限りません。一人ひとりの住民に対して、テーラーメイドの災害情報を届けることが防災チャットボットの大きな役割となります。これを実現するためには、言葉の認識精度はもちろんですが、地域の地名などもAIが適切に認識できるようにしなければならず、大きな課題と考えています。
また、国内外の多数の衛星を活用して上空から被害状況を把握し共有する技術にも取り組んでいます。この衛星活用技術は災害発生から2時間以内に衛星画像を撮影してデータを解析・共有することを目指しています。災害が発生した際、政府や自治体に災害対策本部が立ち上がるのが2時間後とされているためです。それまでに被害状況の全体を把握していないと本部の初動対応が遅れてしまうため、2時間という壁は極めて重要であり、国や自治体からも強い要望があるのです。
しかし、今の技術で2時間以内に衛星画像を撮影・解析し、提供するというのは夢物語に近いです。AIをはじめとしたテクノロジーで技術開発を行っていますが、衛星画像に特化した独自のAIを開発することも大きな課題と認識しています。
もし衛星によって迅速に被災状況を把握する技術が実現できれば、世界各国に対しても災害支援の分野で日本がリードしていけるでしょう。

―「 AIにより首長の避難判断等を支援
     衛星が大規模地震時の対策立案の鍵に 」―

Q-

AIは防災の分野でも大きな期待がされているのですね。

PD-

市町村向けに開発している情報システムは、4つのAIをもとに構成されています。「災害そのものを判定するAI」「地域ごとに災害に耐えうる強さを判定するAI」「これら2つを統合して評価するAI」「避難勧告などの発出を判定するAI」です。
ただし、人の命が関わる避難勧告を、完全にAI任せにすることはできません。AIが避難判断を直接指示するというよりは、あくまでも首長の意思決定を補助するツールと考えたほうがよいでしょう。自治体によっては大規模災害への対応経験が少ないところも多いため、われわれが開発している情報システムによって支援できればと考えています。

Q-

「衛星による被災状況解析・共有システム」は将来的にどのようなケースに活用できるとお考えでしょうか。

PD-

大きな要素としては大規模地震が挙げられると思います。台風や大雨のような風水害の場合は、台風の進路や気象情報によってある程度の予測ができるため災害復旧の対策も立てやすいです。
しかし、地震の場合は予測が難しく、今のところ決定的な対策が立てられていないのが現状といえるでしょう。衛星による被災状況解析・共有システムが実用化できれば、衛星データとシミュレーションデータを組み合わせて、地震発生後のビルの倒壊や地すべりなど地形の変化を判定することもできます。

―「  府省庁やSIP他課題との連携をしながら
   新しい日常における防災に取り組む 」―

Q-

SIPの特徴である府省庁連携や、今後の社会実装に向けた取り組みについて、どのように進められているのでしょうか。

PD-

特に関連性の高い内閣府(防災担当)や国土交通省はもちろん、さまざまな府省庁との連携が進んでいます。たとえば、災害発生時における避難所の感染症対策などは厚生労働省も関係してくるでしょうし、通信インフラの復旧には総務省も関係してくるでしょう。
府省庁連携においては、それぞれが持っているデータをそのまま共有しても必要な情報が得られるとは限りません。データを加工したり組み合わせたりして必要な情報とすることが求められます。防衛省は加工・統合の機能を持つわれわれの情報システムを非常に高く評価してくださり、自衛隊の災害訓練にも活用されています。

Q-

新しい日常(ニューノーマル)における防災について、今後どのような取り組みを進めていく予定でしょうか。

PD-

大きく3つのポイントがあります。1つは「災害動態解析システム」とよばれる予測技術を活用し、災害発生時に手遅れになる前に県が国に支援を求めることができるようにすること。2つ目は防災チャットボットを住民の健康状態などの把握にも活用し感染症対策時でも利用できるようにすること。3つ目は感染シミュレーションを災害医療に役立てることです。避難所の設営などにも有効で、感染症対策時には重要な役割を果たすと考えています。
防災チャットボットによるデータの取得、データ同化による感染症シミュレーションの実行と災害動態解析による将来予測は、防災分野と感染症分野が連携した新しい取り組みです。より合理的な避難が実現できるよう、新しい日常に対応した研究開発を推進してまいります。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)