戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 

効率的なエネルギーマネジメントを実現するIoE社会

柏木 孝夫

東京工業大学 特命教授・名誉教授先進エネルギーソリューション研究センター長

再生可能エネルギーを制御してスマートシティの構築へ
日本のみならず、世界的な共通課題としても認識されているエネルギー問題。革新的なテクノロジーはエネルギー分野のどのような課題解決につながるのか、「IoE社会のエネルギーシステム」の研究に取り組んでいる柏木 孝夫PDにお話を伺いました。

―「セクターカップリングを連携させたアーキテクチャを設計」―

Q-

IoE社会のエネルギーシステムのデザイン」について、これまでの進捗と今後の予定についてお聞かせください。

PD-

「IoE社会のエネルギーシステムのデザイン」というのはIoE社会のコンセプトおよび出口としてイメージしているものです。具体的には再生可能エネルギー中心の電気のシェアリングエコノミーによってスマートシティを実現し、電力の有効利用を実現することです。電気は一般家庭以外にもさまざまな業種で利用されていますが、需要と供給のバランスを適切に見極めるためには、今後ビッグデータの活用が不可欠になると思います。そのために、現在はエネルギー分野データ基盤のアーキテクチャの設計を行っている段階です。交通やエネルギーなどさまざまな分野におけるデータを取り込み、電気を効率的に活用するための構造設計に取り組んでいます。また、IoE社会を実現するためには、キャッシュフローを含めたビジネスモデルにつなげていくことが重要と考えており、これが実現できれば国に対して具体的な政策提言なども可能になると思います。新型コロナウイルスの影響によってデジタル化が加速していますが、今後エネルギーシステムも含めて社会全体の構造が変わっていくと思います。IoE社会というテーマも非常に関連性が高いため、今後さらに注目され社会を変革し、Society5.0の機動力になるのではないかと考えています。

―「電力の安定化に不可欠なIoE共通基盤技術」―

Q-

「IoE共通基盤技術」というのは、IoE社会を実現するうえでどのような役割を果たすのでしょうか。

PD-

そもそも電気というのは人間の体と同じなのです。電圧は血圧、電気の周波数は脈と考えることができ、それぞれが一定の範囲にないと上手く動きません。そのため需要と供給のバランスが崩れて周波数が乱れたり、送電網にトラブルが発生したりした際には停電を引き起こしてしまいます。火力、原子力などの大型電源はベースロード電源として一定の電力供給が可能ですが、柔軟性に乏しいという欠点があります。一方、太陽光発電など変動性再生可能エネルギーは気候や立地条件など変動成分が大きく不安定ですが、環境負荷の低い電源として古くから注目されています。近年では、電力系統の柔軟性の向上に寄与し、再生可能エネルギーの大量導入を可能にする技術として期待されており、本SIPではIoE共通基盤技術として、「パワーエレクトロニクス」と「WPT(ワイヤレス電力伝送)」の研究を進めています。パワーエレクトロニクスとは電気の周波数を高速でデジタル変換(スイッチング)する技術で、複雑化する電力需要に対応するものとして期待されています。現時点では、スイッチングの役割を果たす高速デジタルコントローラの基本設計およびコアモジュール回路基板単体での試作・評価も完了しています。これまではシリコン系の素材が使用されていたのですが、窒化ガリウムや酸化ガリウムといったガリウム系の素材が有効であることが分かりました。実際、本SIPで開発中のコランダム構造酸化ガリウム(α‐Ga2O3)を用いたパワートランジスタは、先行する市販SiCの特性を大幅に超えるチャネル移動度を実現できました。その結果、今年度の「半導体・オブ・ザ・イヤー2020」半導体デバイス部門のグランプリを受賞しております。WPTにおいても、窒化ガリウム系半導体を使用した青色発光ダイオードの技術が応用されます。これはワイヤレスでの給電・充電を可能とする技術で、IoEだけではなく自動運転の分野においても注目されている技術です。

―「イノベーションのカギを握るワイヤレス給電」―

Q-

IoEの応用や実用化に向けてはさまざまな研究や取り組みが考えられると思いますが、これまでの具体的な研究内容についてお聞かせください。

PD-

大きく分けて2つのテーマがあります。1つは「センサーネットワークおよびモバイル機器へのWPTシステム」、もう1つが「ドローンへのWPTシステム」です。センサーネットワークおよびモバイル機器へのWPTシステムでは、たとえば「分散アンテナ協調ビーム制御方式」という方法で複数の送電アンテナから協調制御により給電する仕組みを検討しており、今年度は実測評価による動作確認まで完了しました。IoE社会が実現すると、いたるところにセンサーデバイスが設置されることになりますが、これまでのような有線給電のままでは設置のハードルが極めて高くなってしまいます。しかし、ワイヤレス給電が実現されれば、センサーデバイスの設置場所に制約はなくなるでしょう。固定電話から携帯電話へと大きな変革を遂げたように、ワイヤレス給電の実現も極めて大きなイノベーションになると確信しています。ドローンへのWPTシステムについては、電力会社が送電線の点検に活用することを想定しながら開発を進めています。これまではヘリコプターで人為的に行っていた送電線の点検も、ドローンを活用すれば安全に点検が可能になります。極めて距離の長い送電線を効率的に点検するには、都度ドローンを着陸させて給電するよりも、ワイヤレス給電のシステムを利用するほうが理想的です。ドローンを飛行させながら給電する「飛行時遠距離WPTシステム」はマイクロウェーブによって実現されます。現在はシステム構想設計として開発仕様案および実証が完了し、今後実施する試験の内容について検討している段階です。

―「再生可能エネルギーは気まぐれ。だからこそマネジメントが不可欠」―

Q-

最後に、PDが想い描くIoE社会とは具体的にどのような社会なのでしょうか。また、私たちの暮らしは具体的にどう変わるのかお聞かせください。

PD-

典型的な事例としては、スマートコミュニティのような社会が挙げられると思います。コミュニティ単位で電力の融通やシェアリングエコノミーが可能になれば、電気の地産地消が実現されます。複数のスマートコミュニティによるクラスターが拡大していくと、再生可能エネルギーを活用したマイクログリッドによって、効率的なエネルギーマネジメントの実現も可能になると思います。そのためには、今までのように企業や自治体、家庭などの単位でバラバラにデータを持っているのではなく、さまざまな分野のデータを取り込み、全体のエネルギーマネジメントが不可欠なのです。太陽光や風力といった再生可能エネルギーは気まぐれで、安定した電源とするためには十分な対策が必要です。また、IoE社会の実現はボランタリーではなくキャッシュの流れまでを具体的に検討する必要があり、実際にビジネスモデルにつなげていかないと社会実装は難しいといえるでしょう。そのためにも、本テーマでは今後、具体的な経済的評価を行っていく予定です。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)