戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 

ものづくりを支えるマテリアル開発革命

三島 良直

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 理事長
東京工業大学 名誉教授・前学長

逆問題MI基盤で先駆者の経験値を後世に継承
さまざまな工業製品の製造や社会インフラの整備に欠かせない構造材料。ものづくりが得意な日本において、これまで盛んにマテリアル開発が行われてきましたが、現在では海外の国々も競争力を高めています。日本のマテリアル開発は今後どうあるべきか、三島 良直PDにお話を伺いました。

―「構造材料の開発における課題を解決」―

Q-

「逆問題MI基盤構築」とはどのようなものなのか、研究開発の進捗や成果についてお聞かせください。

PD-

鉄鋼材料に代表される構造材料は社会基盤を支える重要な存在で、これまでにアカデミアや産業界にはその開発技術の内容とこれに関わる膨大なデータが蓄積されています。所定の特性を引き出すためには材料の種類、化学組成、加工や熱処理などの製造プロセスが複雑に関連しているのです。構造材料の開発にはさまざまな試行錯誤が繰り返され、実用化にいたるまで十数年という長い時間を要するのが一般的でした。この問題を解決すべく取り組んでいるのが、逆問題MI(マテリアルズインテグレーション)構築基盤です。過去のデータを解析し、要求される材料特性・性能を得るまでの製造プロセス手法を合理的に説明する順問題の例をできる限り構築します。これをベースにAIなどの技術を用いて欲しい材料特性を得るための製造プロセスの設計を可能にし、新構造材料開発にかかる時間とコストを大幅に軽減することを目指しています。国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)が中心となってMI基盤の構築を担当していますが、これまでに高強度鉄鋼材料、軽量高強度のアルミニウム合金、チタン合金、耐熱金属材料のニッケル基合金などについて着実に研究が進んでいます。一方で、インフラやセキュリティなど、広範囲な要求をカバーしながらシステム開発を進めることの難しさもあらためて実感します。しかし、これらは社会基盤を支えるうえで欠かせない存在でもあるため、われわれは完成度の高いシステム構築に意欲を持って取り組んできました。また、構造画像から特徴を抽出したり、実験結果から次の試行入力を決定するためのアルゴリズムを開発したりすると、経験を積んだ人間の直感の凄さをあらためて痛感します。先駆者の経験値を次世代に引き継ぐためにも、本研究の重要性を感じています。

―「高度な要素技術によって国際競争力を維持」―

Q-

「多機能CFRP」や「自動積層技術」とはどのようなものでしょうか。

PD-

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は従来のアルミニウム合金に比べ圧倒的に軽量であり、現在は民間航空機の機体材料としても多く使用されています。炭素繊維を配列して樹脂を浸み込ませたシート(プリプレグ)を、単純な平面の部分は機械が、複雑な曲面の部分は人の手で積層し、機体部品を製造していました。しかし近年、その生産性を上げるために全て機械で積層する自動積層技術の採用が増えています。日本はCFRP分野において他国に比べて競争力が高いとされていますが、他国の技術力も急速に向上しています。自動積層技術をはじめとし、積層板の炭素繊維の配向を最適に制御してより高い強度とすること、また多機能性として難燃性等の新たな安全性を付与することなどに取り組み、今後も国際競争力を維持していく必要があります。これらの目標を達成するために、本課題では3つのチームが連携し、しっかりとした産学連携体制で取り組んでおり、難燃性を有する樹脂組成の探索など注目すべき成果を上げつつあります。

Q-

「粉末・3D積層」の研究もされていますが、どのような分野に有用なのでしょうか。

PD-

鉄道などの社会インフラや輸送機材に使われる構造材料、特に金属材料においては、原料を溶かした後、鋳造や鍛造という方法でその形状を作り上げる方法が一般的でした。しかし近年、この種の材料を粉末から製造する新しい技術が進展し、そのなかの一つとして「金属粉末の3D積層造形」が注目されているのです。原材料となる金属材料を溶解した後、さまざまな手法で粉末状にし、作成する部材の2次元スライスの一層ずつ(粉末床)をレーザーや電子ビームで部分溶解・凝固して積層していく方法です。特に、複雑な構造をしている部材を製造する場合に有利な方法でしょう。具体的には航空機エンジン用部材のなかで、特に耐熱性が要求され、日本の国際競争力を高める部材の製造に適用すべく研究開発が進んでいるところです。

―「先進技術を取り入れて社会実装を目指す」―

Q-

今後の社会実装を見据えコンソーシアムの体制構築等を行うようですが、MIシステムの社会実装に向けてどのように取り組んでいく予定でしょうか。

PD-

MIシステムの社会実装に向けては、今年度終盤に予定されている課題の中間評価を前に現在検討が進んでいるところです。鉄鋼材料やチタン合金、ニッケル基合金など、実在する構造材料の開発で培った技術を振り返り、AIなどを積極的に取り入れたMIシステムの構築を目指します。新しい材料を効率よく、短期間で開発し社会実装するため、産官学が一体となって参画することで我が国のものづくり産業の発展に資することができるでしょう。MIシステムの運営はデータの取り扱いにしっかりとしたルールを設けたうえで、さまざまなステークホルダーにとって使いやすく、なおかつ情報管理においてはそのセキュリティを確保する必要があります。粉末・3D積層の研究およびCFRPの研究もMIシステムと連携しつつ、それぞれの分野での新たな先進材料の開発を目指し、社会実装への道筋をつけられるよう担当者全員が一致団結して臨んでいます。

―「産官学が協力しながら国際競争力をさらに強化していく」―

Q-

SIPの成果が社会へどのようなインパクトを与えるとお考えでしょうか。今後の展望も含めて教えてください。

PD-

アカデミアや企業等がこれまでに蓄積してきた、材料開発技術や関連データと、AIなど先端技術との連携によって、今後は新たな研究開発システムの構築が求められます。特にエレクトロニクス材料や磁石、電池材料などの機能性材料、高分子材料、さらには化学工学分野等においても新たな研究開発システムの構築が重要視されており、さまざまなシステムが完成しつつある状況です。たとえば自動車用鋼板の場合、強度だけでなく溶接ができること、腐食環境における耐久性を持たせることなど、複数の特性が要求される構造材料でもあります。本課題は、このような材料を開発できるシステムを目指すものであり、非常に難易度の高い挑戦であると考えています。材料立国を標榜する日本が国内外に供給してきた構造材料は、その品質と信頼性に対して高い評価を得てきました。本課題において目指す統合型材料開発システムを構築し、産官学が協力し合って構造材料分野での新材料開発を進めることによって、我が国のものづくり産業において国際競争力をさらに強化できると期待しています。

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