戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 

現場のデジタルトランスフォーメーションの裾野を広げる

佐相 秀幸

富士通株式会社 シニアフェロー 博士(工学)

誰もが早く・安く・簡単に構築できるIoTのPF
Society5.0の実現に向けてIoTは不可欠な技術ですが、産業への応用には高いハードルがあり、躊躇してしまう企業も少なくありません。IoTの社会実装を促進するために「フィジカル空間デジタルデータ処理基盤」について研究している佐相 秀幸PDにお話を伺いました。

―「エッジPF技術を一気通貫で提供」―

Q-

本課題が目指すエッジプラットフォームとはどういったものでしょうか。

PD-

Society 5.0を実現するには、現場(フィジカル空間)の情報を収集・蓄積し、仮想空間(サイバー空間)と連携する技術(CPS)の構築が必要とされています。ところが、CPSを実現するためにはコストの高さやIT人材不足、セキュリティリスクなど、さまざまな懸念があるのです。そこで、本課題においてはエッジコンピューティングとよばれる分散処理に着目しています。離れた場所にあるサーバーではなく、端末に近い場所で処理することで遅延を解消する技術で、これを応用したエッジプラットフォーム(エッジPF)を開発し、社会実装を目指しています。具体的には、フィジカル空間のデータを収取するセンサ技術、データをリアルタイムにメタ化する技術、限られた計算リソースで分析するエッジAI技術、エッジAIの分析結果に基づいてアクチュエータを接続・制御する技術を開発し、専門家でなくてもシステム構築が可能なIoT構築基盤(My-IoT)などを組み合わせて提供します。My-IoTや革新的センサ技術などの要素技術によってエッジPFは成り立っており、IoTの導入がなかなか進まない分野や企業に対し一気通貫のサービスが提供できるようになります。

―「IoTシステムを容易に開発・構築・展開可能な一体型システムアーキテクチャ」―

Q-

「My-IoT」とは具体的にどのようなものでしょうか。

PD-

IoTの普及を阻む要因として、利用者と提供者で要求する仕様が異なるという矛盾が本質的な原因と捉えています。My-IoTはこの矛盾を解消するため、利用者自らが提供者側に立ち、自身が求めるIoTシステムを容易に開発できる仮想化システムアーキテクチャです。センサやアクチュエータ等の制御情報をIoTストアに登録し、スマホやパソコンのアイコンをつなげる感覚で、一連のシステム動作をプログラミングできるものです。専門的なノウハウやIoTソリューションの構築に必要な技術を自動化して提供することにより、我が国のさまざまな業種の企業がCPSを容易に構築できるようにしていきます。さらに本研究終了後は、エッジPFを継続的に維持・更新・提供するコンソーシアム等を構築することで、中小・ベンチャー企業等も含む、我が国全体でCPSを活用した新ビジネスへの参入機会の拡大を狙っていきます。

―「フィジカル空間のICT化で鍵となるセンサ技術」―

Q-

「革新的センサ技術・超低消費電力IoTチップ」の開発の狙いについて教えてください。

PD-

フィジカル空間の構築に必要となる体系的なセンサ技術、たとえば、これまでセンサデータが取得できなかった微弱な信号を電源がない環境でも取得できるデバイスが求められるのです。これを実現するために、電力消費の低減やセンサのダウンサイズ化、太陽光や振動などによる環境発電を可能にするエナジーハーベスト技術なども開発しています。また、複数のセンサや処理装置を備えたマルチセンサモジュール(MSM)をプラットフォーム化する取り組みも行っています。既存のセンサデバイスと、従来のセンシング技術では収集できないデータにも対応できる高感度センサがフュージョンされ、価値の高いデータを生み出します。日本はデバイス分野において高い競争力を誇りますが、センシングデータを組み合わせ、世界でも類を見ない価値の高いデータを取得していかなければなりません。このためには、センサプラットフォームが必ず必要となってきます。そのために、今年度からは社会実装に向けて実用環境での動作検証を部分的に開始しました。

―「課題先進国である日本の社会課題をICTで解決」―

Q-

社会実装技術の中にはロボティクスやパーソナルモビリティも含まれていますね。

PD-

Society 5.0の実現に向けて、特に人手不足が深刻な食品業界、製造業、農業、介護をはじめとした分野にロボティクスを、移動弱者に安心・安全を提供するパーソナルモビリティを社会実装していきます。ロボティクスでは、柔軟要素製造技術、デバイス設計/製造技術、センサ開発技術、人工知能、IoT、システム化など多くの技術が必要とされます。たとえば飲食店の場合、人とロボットが狭空間で作業するためには、事故が起こらないようにロボットが人の存在を認識し判断できる仕組みが必須です。効率的な技術開発を促進するために、立命館大学を中心とした研究拠点を作り、そこが先導的な役割を果たしていきます。ロボットの導入は三密を避けることにもつながり、withコロナ時代の社会貢献にも合致すると思います。パーソナルモビリティの分野では、商業施設などの屋内施設での移動や生活地域での屋外移動をサポートする自動走行技術を開発し、スマート社会を創出することを目標としています。そもそもパーソナルモビリティとは、電動車椅子のように1人の移動をサポートする乗り物をイメージしていただけると分かりやすいかと思います。交通弱者にとっての移動手段だけではなく、モノの自動搬送や掃除、警備などに応用展開が可能であり、人手不足が続く幅広い業種において救世主となり得る存在です。

―「あらゆる分野にデジタルトランスフォーメーションを実現」―

Q-

エッジプラットフォームが広く普及したとき、どのような社会に変わるのでしょうか。

PD-

これまでの社会は、世の中に情報が溢れているにも関わらず、知識や情報が十分に活用されないという問題がありました。エッジプラットフォームが普及すれば、IoTで全ての人とモノがつながり、知識や情報が共有されることで、産業や社会が抱える課題や困難を克服できると考えています。社会の変革やイノベーションを通じて、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合える社会、一人ひとりが快適で活躍できる社会に変えていきたいと思います。社会実装のための出口戦略として、エッジPFのコンソーシアム設立に向けた取り組みや、エコシステム構築についての議論も始まっています。エッジPFのコンソーシアムについては、2019年度に前身となるエッジWGを設置し、2021年度に法人化を目指しています。本課題のノウハウ、ライブラリをエンドユーザーに提供し手軽にIoTソリューションを構築できる仕組みを実現していきたいと思います。

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